敬愛するAへ捧ぐ
この世の中を、私というフィルムを通して見渡したときにひとつだけ強く思うことがあるんです。
嫌いなものなんてあんまりないし、むしろまわりはすきなものばかり。そんな私のポリシーは「人に思いやりをもつ」こと。そういう、ふつうのいい子なんです。何の害もない、つっかかってもめない、あたってくだけない、とげもないけど情もない。そんなだれにでも当たり障りのない人間だと思われるようにそうして、それを私だといって胸を張っている、そんなふつうのいい子になるために生きているような人間なんです。そんな風に、あくまで人畜無害を自称してきた私がはっきりとした態度でこれだけは言い切れる。
あいつが、この世で一番大嫌いなんです。
胃の底の燃えるような妬み。胸の焼け爛れるような憎しみ。羨望が牙を剥いて私の今までの人生全てを食い潰していく脅威。対抗心は正直で気づけば唱えている呪文みたいに。あいつが忌々しい。あいつが大嫌い。あいつが成すことすることぜんぶイライラする、あーすごくイライラするんです本当に。
だって私が必死で息切れしながら走っているその横を!さも優雅みたいな風に馬かなんだかで、パッカパッカ追い越していって、それでこちらから表情の見えないその背中をむけたままでにこにこ笑っているような、そうしてその微笑が無垢そうにみえることにもイライラ、なにが無垢だ、あいつの本心は絶対に汚いんだからやっぱりその一見柔和そうな笑い顔をつくりだしているその心の在り様なんかもっともっと汚いんですまるで反吐みたいに汚くて、だから私は胸糞悪くて気分も悪くてとにかくあの顔に吐瀉物をぶちまけてやりたい。とにかく、あーすごくイライラ、イライラしてなんでわたしはこんなイライラしてんだって考えてそれでまたイライラしてイライラして、イライラする。
あいつがこの世で一番大嫌いなんです。
絶対に負けたくない。知ってほしい。諦めたい。諦めたくない。悔しい。憎い、憎い。
好きなものならば沢山言えます。おやすみからおはようまで。いつだって私の人生はおおむね素敵な日和でいつだって楽しくて面白くて次々に湧き起こる事象はどれもこれもが大事なことだから、私は私のアイデンティティの「好き」という感情を存分に満喫して謳歌して、そうして生きてきて、それだから、それなのに。
あいつだけ、
あいつ、大嫌い。
この世で一番、いちばんだいきらいなんです。あなたって人がね。
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