「なぁどうしてかとても眠たいんだ、目が開かないんだ一体どうしたらいいっていうんだろう」 「なにをいってる。そういうときは頭の中に爆竹を放り込んでやればいい、それで一発だろう」 「なんだって?」僕はなんてばかげたことを、という言葉をなんとか飲み込んだ。 「だから爆竹だろうが、みんな知ってることじゃないか。お前だってそうだろう?」「そうか」と僕は納得した。「そうだったな、爆竹だったな」「そうだよ」そうして僕は頭の後ろ側に腕を回して耳のはしっこを掴み持ち上げた。耳たぶの淵から皮膚がぴりぴり裂けていって、というよりもあらかじめ切り取り線で縁取られていたかのように規則正しく平行を保って頭半分が開いてゆく。痛みはない。いまだにひたすら眠気を引きずっているだけだ。「気持ちいいだろう?」「気持ちいことなんてあるもんか」「嘘を言うなよ」「嘘なんかじゃないよ」「どっちだっていいだろう」「君が言い出したんだ」「俺だったか?そうだったっけ」「もういいよ、とにかく爆竹を詰め込んでくれるんじゃなかったのか」この無意味な会話の存在意義を考えたときにまず思い起こされるのは南極の氷の溶ける音がどんなものかということである。星の瞬きほどの生命体をいともたやすく飲み込んでしまうであろう水量がすべて海と同化するのはまだ遠い先の話であるにも関わらず、メディアや論文が冷えた世論とセックスしている間にもこんこんと湧き水のように、あるはつららから滴るとつとつとした音色かもしれない、その幻聴を子守唄としながら転寝することに対して奇妙な罪悪感の発酵していく過程を実感している、まさにその時の非生産性がそれだ。唐突に視界が真っ白になる。ぱんっと弾けた。拡散していく原色の蛍光に目がくらむ。頭部の中で爆発が起こったのだ。焦げた臭気が鼻の奥から喉まで転がり込んできた。「いがいがする」「なにしばらくの副作用さ、おかげで目はさめたろう?」「ばっちりね」「それはよかった」「こんなに世界がきれいだとはしらなかったよ」「それはよかった」「いま生まれ変わったみたいに高揚している」「それはよかった」「きみが救世主にみえる」「それはよかった」「セックスしよう」「おいおい、それさえも副作用だよ」「そんなはずはないよ、いま君の魅力を知ったんだ」「いや絶対にちがうね、俺はお前の救世主ではないよ」「そんなはずはない、いま世界が開けたんだ」「戯言を」「これは本当のことだよ、目が醒めたのはほんとうは今で、それまでの僕の人生は起きたふりをした屍が動いてたんだ、そしていま魂がめざめた」「やれやれ、おつむを大怪我したらしい」「新しくなっただけさ、フレッシュに」「錯覚さ」「それでもいい、僕とセックスしよう」僕は掴んだ彼の手首の太さと性器の太さに思いを巡らせて微笑んで見せた。
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