自分自身のインチキさにいらいらする、
じゃあな、トンチキ。
5番街の端とニコラギー街の入り口を挟む路地の信号が点滅していた。人影はない。
自殺でもおっぱじめるのかい? とトンマがどこからかにょっと現れて尋ねた。
僕はひとこと、うんと答えてメタルがきらりとひかるみたいに黒々と照り輝く銃口を右の耳の穴に押し当てて、脇をしめた。
トンマは一度だけふんと鼻を鳴らした。僕は彼の右の手におさまっている陶器の白いマグが、コーヒーの染みで煤けたように汚れているだろうことに落胆しながら、だらしのないその立ち姿をだまってみつめていた。いくらミルクで薄めたって白にはならないんだ。どれだけの注ごうとも、ブラックコーヒーの存在がかききえてしまう前に、マグカップの容量が悲鳴をあげてしまう。色は濁ってとにかく淀んだみたいに汚いだけ。
僕は目をぎゅっとつぶったまんま、背中に当たる強烈な日差しを忌々しく思った。
自転車のチェーンが小さく唸りをあげている。チキチキチキチキ 「おい、おまえなにしてる!」
誰かが勢いをもって近いてくる。その様子がスローモーションのようにコマ送りで差し迫る。
僕は足元をふいに見た。そうして、硬いコンクリートに緑の草のしたたかさが打ち勝った光景を見た。直立していたその生きた青葉に足をかけて、そのあとはもう僕の身体が硬直して動かなくなった。
力と力のぶつかりの狭間で熱を穿った静寂が息づいている。トンマだけがにやにや笑っている。いんちきだ。とんちきだ。ぜんぶがぜんぶ、最低だ。
うそつきな人差し指。涙が滲んだ。
僕は右手の正義を振りかざすよりも、地面に叩きつける方が簡単なことを知ってしまったのだ。
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