彼女は嘘つきさ、
だってね、チェスをしないかい? と誘ったら
「今日は妹たちを外に連れて行かなくちゃいけないのよ、なにせおばさんが来るもんだから手が空いてるのは私だけなの、それで母さんから今しがた連絡が入って、」
こうやって何かのせいでやむおえず僕とチェスができないというんだ
しかしぼくには『あんたなんかとチェスなんかはしない』ってあからさまに吐き捨てられるよりダメージを受けたね
(というのも、このところ、このいいわけ塗りかべが彼女のまわりをうろうろと横行しすぎて、僕にはなにがなんだかわけがわからなくなって疲れてきちまったというのがほんとのところでさ、とりわけいつもはあっけらかんとなんでもすいすい決めちまって電車のレールもびっくりのスピードでものごとが進んでって、それはそれで時たま僕のほうが疲れちまうくらいなんだけれど、今日の様子は特におかしいかんじがしたんだ、だから嘘つきなんてことでも言ってすねてみたくなったんだな)
彼女はしじゅうおろおろしていた。僕は制止をかけて、彼女に確認をとったんだ。
「ねぇ、まってよ、それってどういうことだい?今から僕の両親が来るんだ、それは君も知っているだろう? なにせ1週間も前に伝えてあるんだからね」
「えぇ、でもおばさんは子供がきらいなのよ、同じ部屋にいるのが気に食わないもんだから、あの子達を屋根裏に閉じ込めるのよ。あんなに暗くて汚くて寂しい場所にひとりおいてけぼりだなんてあんまりよ」
「じゃあ、わかった。チェスはやめにして、その子たちを家に連れて来て、みんなで遊べばいい、それなら構わないだろう?」
「そんな、でも、そんなのだめよ、おとうさまやおかあさまに迷惑がかかるわ」
「迷惑なもんか、もうじき僕らは家族になるんだ、妹君らのことだって誰も文句なんか言いやしない。みんな子供は好きだからね。君はなにも気にしなくていい」
「えぇ、そうね…でも、やっぱり外のほうがお天気がいいじゃない?だから私と妹たちとで、」
「ねぇ、僕は前々から言いたかったんだけれど、最近何かあったのかい? 何をそんなに遠慮しているのだろう?」
彼女は微笑もうとしたが、それには失敗し、ぎこちなく口元を引き伸ばしたまま何か言葉を探しているようだった。
「僕はたよりないのかな。それとも、僕がなにか君を不快にさせるようなことをしたのだろうか?」
「ちがうのよ、そうじゃないのよ、そういうことではなくて…」
その後直ぐに、妹君らが彼女のお母さんに送られてきて、そのうちに僕の両親も到着した。
彼女は、あいさつと少々の談笑を交わしたのちに、外に出て行って、それから、1時間ばかしして戻ってきた。
その後は皆でわいわいさわいだけれど、僕はまだ、彼女に尋ねなければならないことは山ほどあったけれど、どんなふうに問いただせばいいのか僕は検討もつかずにいたのだった。
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